「あ、あれ?」

俺は呆然とした。子どもたちを見ると、子どもたちも呆然としていた。

「えーと、試験の時もあんな感じだったのか?」

聞いていた噂と違うなあ、なんて俺は思いつつもナルトに聞いた。

「うーん、試験の時は割りと普通だったってばよ。本とか読んでたけど、でもでも、最後に合格って言われた時はかっこよかったってばよっ。えーと、なんだっけ?掟を守らない奴は駄目だけど、仲間を大切にしない奴はもっと駄目だって!あの時はすっげえかっこいいって思ったんだけど...。」

ナルトが首を傾げている。ふーん、そっか、ナルトがかっこいいって思う程の人物か。それにどうやらナルトの態度から見ても九尾がらみの偏見を持つような人ではなさそうだ。
よさそうな上忍師の人で良かったな。

「よっし、じゃあお前ら合格のお祝いにラーメンおごってやるぞ!」

「あ、先生、私はごめんなさい。」

サクラが申し訳なさそうに謝ってきた。うん、そうだな、サクラはきっと家で祝ってもらうんだろうな。そこに無粋な真似はしちゃいかんだろう。

「うん、じゃあまた今度な。サスケは来るだろ?ナルトは言わずもがなってところだな。」

ナルトはラーメン、ラーメン、と目を輝かせている。サスケは少し逡巡したようだが、諦めたかのようにわかった、と小さく呟いた。なんか生徒であるサスケに気を遣わせてしまったような気がするな...。ま、いいか。

「んじゃもうちょっと待っててくれ。仕事終わらせてくるからな。」

俺はナルトとサスケに食堂で待っているように言うと職員室へと戻った。そして残っていた書類で今日中にしなければいけないものをさっさと終わらせた。
まだ少し残っているがこれは明日でもいいしな。

「んじゃ、俺は帰るよ。お先に〜。」

俺は同僚に言って職員室を出た。そして食堂へと向かう。そう言えばあいつら昼飯は食ったのかね。俺は火影様と一緒に食ったから小腹が空いてるくらいだけど、あいつら育ち盛りだから腹空かせてるかもしれない。
俺は心持ち急いで食堂へと向かった。
ナルトとサスケは大人しく食堂で待っていた。ナルトが俺に気付いて立ち上がる。

「イルカ先生、遅いってばよっ!俺もう腹ぺこぺこ〜。」

「すまんすまんっ。」

俺は手を合わせて謝ると、二人を連れて一楽へと向かった。

「しっかしよく頑張ったな、お前ら。あのはたけ上忍が下忍認定試験で合格させたのお前たちが初めてなんだぞ?」

俺が言うとサスケはそう言えば、と言葉を繋げた。

「そんなようなことを言ってたな。今までの奴らは言うことを聞くだけのボンクラどもばっかりだったらしい。」

へえ、そんなこと言ってたんだ、あの人。しかしその試験に見事受かったんだからなあ、やっぱここは手放しで褒めてやんないとな!

「でもさ、でもさ、俺ってばがんばっちゃったんだもんね〜。」

ナルトが手振り身振りでこてんぱんにしてやったんだぜっ!と息巻いている。

「サスケ、本当の所はどうなんだ?」

「お前は縛られてただけだろうが、うすらトンカチが。」

ナルトがむきーっ!とサスケを威嚇する。はいはい、なんとなく状況は解ったよ。
俺たちは一楽についた。そしてカウンターに座る。時間帯が時間帯だからか、お客は俺たちだけだった。

「ラーメンとチャーハン、あと餃子も付けていいぞ。」

言うとナルトがやっりー!と注文していく。サスケはどうする?と聞くとしょうゆで、と呟いた。それからほどなくしてラーメンが運ばれてきた。うっし、じゃあ食うかー!と割り箸を手に持った所で1人の忍びが慌てて暖簾をくぐってきた。
まだ閉店時間までには時間があるからそんなに慌てなくてもいいだろうに、と思いつつ俺は麺を口に運ぶ。一楽は3時までで一旦準備中になり、夕方からまた開店するのだ。

「おい、イルカっ。」

呼ばれて俺は振り向いた。そこにはアスマ先生が立っていた。

「あれ?アスマ先生、どうしたんです?先生もラーメンですか?」

そこに餃子がやってきた。さ、お前ら食えよー、と俺はそれぞれの前に餃子の皿を置いていく。子どもたちはアスマ先生の登場に少し驚いたようだが、すぐに餃子に意識が持って行かれたのか、ラーメンを食いつつ餃子も口の中に入れている。余程腹が減ってたんだろうなあ。

「のんきに餃子を配膳してんじゃねえよっ!」

「いや、別にのんきじゃないですよ?一体どうしたんです?」

アスマ先生は息を切っている。余程慌てているらしい。はっ、もしかして何か緊急事態でも起きたのか?でもその場合もっと効率のいい式かなんかで知らせてくれればいいものを、わざわざアスマ先生に伝言役を言いつけるなんて、どこのどいつだ?

「お前、カカシを、お前、」

「え、はたけ上忍がどうかしたんですか?」

さっきものすごい勢いで帰っていったけど、あれにはものすごい訳があったりしたのかな?そんな緊急事態だったなら俺にも何か手伝わせてくれたっていいのに。そんな気兼ねしなくても。

「イルカ、お前、俺が解るか?」

何をそんな当たり前のことを聞いてくれちゃったりしてるんだろうこの人は。

「一体どうしたんです?アスマ先生が俺と小さい頃からの知り合いでよく遊んでくれたってのは解ってますよ?昔はアスマ兄ちゃんって呼んでましたけど、上忍になったんでアスマ上忍って言って、そのうち上忍師になったからアスマ先生って言うようになった。こんな感じですけど。何か違ってます?」

アスマ先生はうーんうーん、と何か悩んでいるようだ。俺のことは覚えてんのにどうしてあいつのことが解らないんだ?と、ぶつぶつと言っている。俺は麺が伸びてしまうのでそそくさとラーメンを掻き込んだ。すぐにチャーハンもやってきた。それも口の中に入れ、餃子を頬張る。

「おい、イルカっ!」

と声をかけてくるので俺は箸を止めた。

「なんだかよく解りませんけど、お急ぎじゃなければ一緒にラーメンいかがです?ここのラーメンうまいですよ?」

アスマ先生は耐えきれないとでも言うかのような顔をした。そしてラーメンどんぶりを持っていた俺の腕を掴んだ。

「あの、ラーメンまだ注文すれば作ってくれますよ?閉店時間までまだ余裕がありますし。俺の食いかけじゃなくても、」

「あー、だめだだめだっ!イルカ、行くぞっ!!」

「は?どこにですか?俺、今生徒に合格祝いのラーメンおごってる最中なんでもうちょっと後にしてもらっちゃだめですかね?」

「お前っ、もしかしたら一生に関わるかもしれねえ一大事なんだぞっ!?」

そんなこと言われても何のことやらさっぱり解らない。でもまあ、急ぎだとアスマ先生が言うのだ、きっと何か大変なことなんだろう。俺は鞄の中から財布を取り出してカウンターにお金を置いた。

「すまん、お前ら、勘定は済ませとくからまた今度な。」

「えー、もう行っちゃうのー?」

ナルトがぶーたれている。俺は苦笑いしてナルトの頭を撫でてやった。

「俺の餃子とチャーハン食っていいから。サスケも悪いな、誘った方が先に帰っちまって。」

「いや、急ぎの用事ならそっちを優先するのが当然だ。」

うん、さすがサスケだな、ちゃんと大人の事情ってもんを理解してくれる。ナルトは俺のチャーハンと餃子をやったー、と言って食っている。お前はもうちょっと相手を思いやるって言葉を知った方がいいぞ。それにそんな態度を取られちゃ、まるで俺じゃなくて一楽のラーメン目的みたいじゃねえか、ちょっと先生は寂しいぞ、ナルト...。

「おい、行くぞ。」

アスマ先生に言われて俺は一楽を後にした。

「それにしてもどこに行くんですか?そもそもどんな一大事なんです?」

急ぎと言う割りには跳躍ではなく徒歩のままで前を歩いていくアスマ先生に声をかけた。

「行くのは病院だ。」

「お見舞いですか。」

「いや、お前が診察してもらうんだよ?」

「ははは、アスマ先生、なに言ってんですか?冗談が好きですねぇ。俺は悪い所なんてどこもないですよ?この間のミズキの傷も大分楽になりましたし。」

「あのなあ、お前の方が冗談じゃねえよ?」

と、言われても...。心なしかアスマ先生の顔が青ざめている。

「アスマ先生?」

「俺は心底後悔してんだ。」

「は?」

「からかい半分にあいつの恋愛相談を受けちまったばっかりにこんなとばっちりを受けちまって、あいつが泣きながら上忍待機室に入ってきて人目も憚らずに俺に泣きついて泣きついてそれはもうひどい狼狽ようで、俺が事情を聞いてくるからめそめそするなと一喝してようやくあいつを引きはがして、俺はそこから逃げ出すのにえらい苦労したんだぞ?お前、そんな俺の労力を労ってくれよ!」

「は、はあ、おつかれさまです。」

なんだか解らないが労いの言葉を言うと、アスマ先生は深い深いため息を吐いた。
俺たちはとりあえず病院へとやってきた。そしてアスマ先生は俺を身体検査に連れ回した。精神科、幻術科、脳神経外科、いろんな所を引っ張られていった。そして最終的にたどり着いたのは呪術科の窓口だった。

「ここでだめならもうお手上げだ。」

そう言って診察室に押し込めた。そこで俺を診察した先生は一言言った。

「んー、んん〜?自己暗示型の呪いかな?とりあえず呪術系ではないなあ。俺では力になれないよ、すまない。あ、忠告しておくけど、よく分からないものを強制して解除しようとしたらだめだからね。精神に傷が付くと大変だ。」

俺ははあ、と医者の言葉を聞いて頷いた。俺、自己暗示なんかしてたのかあ?でも日常生活に何の障害もないみたいだから大したことじゃないのかな。診察も終わり、俺は待合室で待っていたアスマ先生に結果報告をした。

「くそっ、自己暗示だってのか?これじゃああいつ納得どころか余計に落ち込むじゃねえか。どうしろってんだ。」

アスマ先生は部屋の隅っこで一人、暗くなっていた。何か、不憫なものを感じてしまう。

「ええと、なんだかすみません。でもまあ、日常生活にはあまり影響ないみたいですし、よかったじゃないですか。」

「よくねえよっ!これから毎日あいつの泣き言を聞くのかと思うとやってられねえよっ!!」

「あの、そもそもその『あいつ』って誰なんですか?何か俺の記憶に関係することなんですか?」

するとアスマ先生は途端に眉間に皺を寄せた。そしてうーんうーんと唸り始めた。何をそんなに考え込む必要があるんだ?

「イルカ、お前、ああ、いや、なんちゅうか。うーん、解った。とりあえず起こっちまったことは仕方ないんだ。誰も責めらんねえよ。」

アスマ先生はそう言いつつもふらふらとした足取りで待合室から出て行った。
俺はその可哀相な位しょんぼりとしているアスマ先生の背中を見つめて首を傾げるしかなかった。